私はINNOTOX(イノトックス)という液状ボツリヌストキシン製剤 を長いこと使⽤してきました。
安いから?違います。アルブミンを含まない設計だからです。
今回、 このイノトックスの学会発表の準備にあたって「当たり前だと思ってスルーしてきた」 細かい事柄について改めてロジックを学び直し、 その設計の合理性を再確認しました。 ボツリヌストキシン製剤といったらアラガン社のボトックスが最高!というイメージをお持ちの方が多いと思います。もちろん当院でもボトックスも取り扱いしております。
まぁちょっと私の推し製剤である、 INNOTOXについて聞いてください。良い製剤なんです。
まず第一に
液状Ready-to-use製剤であること
INNOTOXは世界初の液状「Ready-to-use(レディ‧ トゥ‧ ユース) 」 製剤です。 粉末製剤は⽣理⾷塩⽔で溶解する⼿順が必要ですが、 INNOTOXはその⼯程がゼロ。
- 再溶解不要
- 濃度があらかじめ規定済み
- 無菌性が担保された完成品
調製の⼯程を減らすこと⾃体が、 精度と再現性の向上につながります。 0.1 mL = 4単位という明確な濃度設定により、 投与精度のばらつきを抑えやすいのも特徴です。
(私開業前に某美容クリニックでバイトしていたんですが、そこではすでに溶解していたボトックスを小分けにして冷凍もしくは冷蔵保管していました。
ある日、エラボトックスをうけたら、ボトックス後に打ったところに赤いしこりができまして、1年消えなかったんです。あんまり論文調べてもなかったんですが、おそらく溶解の工程で混入したなにかしらのものが影響したのではないかと思います。
そういうのが起こりえないのがイノトックスの良いところです。)
イノトックスの良さをつたえるのに、いろいろ難しい言葉がでてきますが、ちょっと我慢してきいてくださいね。
API、なんじゃそれって思うかもしれませんが、さらっと流してもらえると嬉しいです
API(有効医薬品成分) とは何か、 なぜ守る必要があるのか
ボツリ ヌストキシン製剤のAPI (エーピーアイ: Active Pharmaceutical Ingredient、 有効医薬品成分) は、 Hall hyper株(ホール‧ ハイパー株) 由来のA型ボツリヌストキシンです。 活性本体は150 kDaの神経毒素ですが、 製剤中では約900 kDaの複合体として存在しています。
この分⼦は⾮常に壊れやすい⾼分⼦タンパク質。 熱‧ 酸化‧ 吸着‧ 凝集という4つの不安定化因⼦に対して脆弱です。 だからこそ、 APIを投与まで安定に保つ設計が、 そのまま臨床再現性に直結します。
「ボトックス」って攪拌の時もそーっとね、とか直後に熱いれたらだめだよ、とかいろいろ決まりがあるんですよ。でも、そもそも「ボトックス」とイノトックスはその物理的・熱的耐性がちがうんですね。
それは
L-メチオニンとPS20による「⼆重の防護壁」のおかげです。
INNOTOXには2種類の独⾃添加剤が配合されています。
L-メチオニン(化学的防護)
L-メチオニンは、 ROS(活性酸素種) に対してAPI よりも先に酸化される「犠牲的抗酸化剤」 として機能します。 API を守るために⾃らが先に酸化されることで、 API の酸化変性を抑制します。
あなたを守るために、、私が酸化されておくから、、みたいなイメージです。
PS20=ポリソルベート20(物理的防護)
PS20は、 CMC(臨界ミセル濃度) 付近で気液界⾯や壁⾯を先に覆い、 API の吸着‧ 凝集を防ぎます。 抗体医薬品でも広く 使われる考え⽅です。
生物製剤とかでよくつかわれてます。
なんだろ、とにかく、APIが劣化する要因に物理的に触れないようにするために頑張ってるミニオンみたいなイメージです。
この組み合わせは⽶国特許 US 8,617,568 B2 として登録されており、 熱‧ 酸化‧ 物理的ストレスへの耐性が科学的に裏付けられています。
HSA-free設計の安全性
ここめっちゃ推しポイントです。アルブミンとか、できるだけ使いたくないじゃないですか。特に若い人とか。
少量だし、って思いますけど、まぁ使わないで済むなら使いたくない。INNOTOXはHSA-free( エイチエスエー‧ フリ ー) 設計、 つまり ヒト⾎清アルブミン(HSA) を含みません。 これはFDA(⽶国⾷品医薬品局) やEMA(欧州医薬品庁) が志向する、 ヒト‧ 動物由来成分に依存しない設計に合致しています。
HIV‧ HBV‧ vCJD(変異型クロイツフェルト‧ ヤコブ病) などの感染リスクを構造的に回避できる点は、 ⻑期的な安全設計として重要な視点です。
多くの人が定期的にうけることになる治療だからこそ、感染のリスクになりうるものはなるべく排除したい、というのが「美容のかかりつけ医」を目指す私の想いです。
そして最近でた特筆すべき論文が「熱ストレス試験の結果」
2025年にAesthetic Surgery Journal(Aesthet Surg J) に報告された⽐較的新しいデータによると、 60℃‧ 25分間の熱曝露後に4種類のBoNT/A製剤の活性をマウス‧ ポテンシーアッセイ(LD50) で測定したところ、 INNOTOXは10⁶〜10⁹ U/バイアルでほぼ100%の⼒価を維持。 他の3製剤(粉末再溶解製剤) では⼀部のアッセイで活性が検出不能になりました。
意味わかんないですよね。
まぁ何回読んでもわからないものはわからない。私もたくさん読んでようやく理解しました。
ようするに、イノトックス以外の他のメジャーなボツリヌストキシン製剤は
「熱かけたらほぼ役立たずになった」ってことです。
まぁだから「ボトックス」後の熱治療はやめとこっていう話に世の中なっているわけです。
「ボトックス」は熱に弱いから。
でもイノトックスは熱にも強い!っていう論文です。
これがほんとなら今までの常識はなんだったんだろう?ってことになるじゃないですか。
でも、こういう論文ってだいたい信用できないことが多いので、すぐには信用しません私は。
というわけで、実際やってみたんですよ。
より完璧な実験にするために筋電図計買ったんですよ。
結構高かったんですよ(´;ω;`)
信用できないですもん。論文だって。マウスだし。人と違うこともあるかもだし。
ということでやっちゃいました。
INNOTOX注⼊直後にHIFU 2mmを照射した⾃験例
前額部にINNOTOXを注⼊した直後に、 同⼀部位‧ 同⼀層にHIFU(ハイフ: ⾼密度焦点式超⾳波) 2mmカートリッジで照射を⾏いました。
ハリ筋電図まで買ったんですよ。針さして、ちゃんと筋肉刺激してね、レイヤー確認して横からイノトックスを注入して、直後にハイフを縦横にこれでもかっていうくらい打ってみました。
イノトックスの日本の社長さんの顔かりて(ご協力ありがとうございました)
HIFUの2mmカートリッジは真⽪深層〜SMAS浅層を標的として、 局所温度が60℃を超える熱エネルギーを発⽣させます。高周波だと多少やきいれが足りないかなとおもってハイフです。
結果は
- 筋弛緩効果に明らかな左右差なし
- 効果発現までの時間に明らかな左右差なし
- 有害事象なし
この結果は、 L-メチオニンとPS20による防護設計が、 熱を伴う併⽤治療においても臨床的な予測可能性を⽀えている可能性を⽰唆しています。(参考: Kim HM, et al. Aesthet Surg J. 2025. doi:10.1093/asj/sjaf025)
まとめ
INNOTOXは、 Ready-to-use‧ API⼆重防護‧ HSA-free‧ 熱耐性という4つの特徴を持つ製剤です。 EBD(エネルギーベースデバイス) や他剤との混合‧ ⽔光注射の併用に最も向いている製剤だと思っています。
あ、最後に。
イノトックスのデメリットは薄めることはできても濃くすることができない点です。
たまにいらっしゃるすっごい筋肉の持ち主には最初からボトックスを勧めることがあります


